『自己破産』
 善之、真由実夫婦の経営するペットショップが赤字続きで、にっちもさっちもいかなくなり、ついに善之が自己破産すると言い出す。自己破産という言葉に驚く真由実。だが、今の日本では1年で14万人が自己破産しているという。そして、社会的な信用さえ放棄してしまえば、なんの問題もないという。

 自己破産すると、どうなるんだろう? という単純な興味からの出発です。こういう事って、都市伝説のようなもので、例えば「海外旅行に行けないらしい」、「銀行口座が持てないらしい」とか、断片の情報は入ってくるけど、それが本当にそうなのかどうかも、よくわからない。でも、調べていくと毎年14万人が自己破産している、なんてことがわかるんです。14万人って結構な数字です。その、14万人は今どこで、どうやって生活しているのだろう? とまた気になるわけです。ただ、興味があるといっても、「自己破産した人が今はこんな生活になっちゃってて」、という覗き趣味とはまた違うんです。自己破産というのは救済のためのシステムなんです。そのシステムはどのように機能しているのか? 人々はどのように救済されているのか? ということに興味があるだけなんです。毎年14万人も自己破産しているのなら、どうして自分の周りにはいないのだろう? とも思うわけです。そして、この芝居を作った半年後に、実際に自己破産した人と話をする機会にめぐまれました。こんな事を(舞台では)言ったんだけど、と言うと「そうそう、俺も言った、言った。そう思うんだよね、やっぱり人間」と太鼓判を押されました。もちろん、自己破産に関する本を何冊か読み、ネットで体験者達の言葉も拾い集めていたので、まったくの想像ということではないのですが、自己破産を決意した時の精神状態がかなりリアルに再現できていた(らしい)のでほっとしました。